【「ここからはそんな余裕はない」】

「何回か、ネガティブトランジションでボール奪取してからのいい攻撃ができていましたし、よかったと思います。後半は鎌田選手がお役御免で交代し、僕によりボールが集まるようになって。みんなが結果を残すことで、(途中で出た)他の選手もチャレンジできたと思います」

 後半も佐野海舟がドリブルで持ち上がった攻撃が阻まれたあと、久保はライン間でボールを受けると、裏に走り込んだ町野に向け、完璧な浮き球のパスを左足で送り、これが再びアシストになった。ラ・リーガで限られた空間のなかですりつぶされるようなマーキングを受けているだけに、インドネシアの守備はいないに等しい感覚だろう。

「リーダー」

 今回、久保は森保一監督にそんな役目を与えられていたが、見事に期待に応えた。リーダーであることを自然に受け入れ、気負いよりもモチベーションにできるところは生来的な資質と言える。ふてぶてしいまでの"陽キャラ"で、どこまでも前向きなところはスーパースターの匂いがする。"陰キャ"はどこかに悲壮感を漂わせるものだが、彼にはそれがない。失敗も成功につなげる揺るぎなさだ。

 もっとも、今回の久保に与えられた役目やタスクが世界の強豪と対峙する際にベストかというと、疑問は残る。

 そもそも、世界ではアタッカーにキャプテンマークを任せるのは、相当に円熟した場合がほとんどである。キャプテンはボランチ、センターバックの主力選手がなるケースが多い。なぜなら、後方や中央でチームを見られる選手のほうが全体に目を配れるし、効率的に士気を高められるからだ。アタッカーはゴール、もしくはゴールに関わる仕事に集中するため、ある程度のエゴも必要で、「負担を背負わせるべきではない」というのが世界の定石だ。

「これで(キャプテンマークを)4年間は巻くことはないのかなって(笑)。ここからはそんなに余裕はないと思うので。思い出としてしまっておこう、と。遠藤(航)選手に巻いてもらって......そのうち、(代表が)長くなってきたら巻くことになると思いますけど、今はキャプテンやりたいわけではないんで、やんなきゃいけないならやります、って感じで......」

 久保は監督や遠藤に気を遣いながら語っていたが、本人がこれから始まる現実を一番理解していた。

 さらに、ポジションについても議論の余地がある。

 久保がトップ下で自由にプレーしたのは悪いことではないが、世界のトップレベル(たとえばFIFAランキング10位以内)とは違う攻防になる。率直に言って、この日は相手が弱すぎた。欧州や南米の強豪の守りを崩すのは簡単ではないし、もっと押し込まれることでピンチの回数も増える。インドネシア戦で日本のウィングバックは得点にも絡んで健闘したが、三戸舜介はラミン・ヤマルには手も足も出ないだろうし、森下龍矢もヌーノ・ゴメスには立ち往生するはずだ。

 やはり、久保や三笘薫や中村敬斗がサイドをスタートポジションに仕掛けて崩し、サイドバックにフォローさせながら、自由に動くほうが合理的だろう。久保は連係力の高さでチームを優位にできるだけでなく、サイドから単騎で崩せるだけに、スペインのヤマル、アルゼンチンのリオネル・メッシのようなポジションのほうがベターのはずだ。

「代表は強くなっていると思います。でもアジア最終予選に勝ったからといって、世界との差が縮まったかはわからない。それはここからの(アメリカ遠征などがある)9、10、11月シリーズで、口だけでなく内容で示せたらって思います」

 久保の言葉である。

著者:小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki