■共依存関係を断ち切る

二藤さんは、セクハラを知ってから1カ月経った現在も、父親と会うことを避けている。

「今頃になって、これまで自分がしてきたことを後悔しています。父が60代の頃、脳ドックで腫瘍を見つけてしまって、早期発見・早期治療してしまったこと。70代の時にトイレでぶっ倒れてチアノーゼになっていたのに、母と近所の人があの人を助けてしまったこと。近所の奥様に性的暴行した時は、母親と親しかったよしみで土下座で許されてしまいました。喧嘩で暴れたり、店員さんを包丁で刺したこともありましたが、いつも被害者が大ごとにせず示談にしてくださいました。そして、施設や病院で4度にわたり、セクハラを起こし、本人よりも私や夫が頭を下げて、新しい施設を支度してしまったこと。全部後悔しかありません」

「死んでほしい」と願うほど憎んでいるなら距離を置けば済むものを、必要以上に世話を焼いてしまう。父親と母親、そして二藤さんは、共依存関係だったのだろう。

「父親が苦しむ姿が見たいから近くの施設に入れる」と言いながら、実際に苦しみ続けてきたのは自分自身だった。

「命は大切と言いますが、こんな人にまだ生き続ける価値があるのでしょうか? 地獄という世界があったとして、あの人がそこに行くのは確定だと思いますが、私はどうなのでしょうか? 大人になった今も、私はあの人が怖いのです。小1の時からずっと、ただひたすら心の中で『死んでしまえ』と願ってきました。私はあの人のせいで歪んだ子どもになってしまいました」

共依存を断ち切るためには、まず共依存関係であることを自覚し、相手と距離を置くことが先決だ。多くの場合、共依存関係に陥っている人は自己肯定感が低く、自分の感情に蓋をしてしまっている。そうした自身に気づき、自分の本当の気持ちを理解・整理し、コントロールするための「自分の取り扱い説明書」を作ることが必要不可欠だ。

また、日本の福祉サービスは、自分から獲得しにいかないと得られない。二藤さんはよい娘を演じる「女優」になるべきではなかった。つらくない演技、親孝行者の仮面を被っていては、いつまで経っても救いの手は差し伸べられない。

そして、「子どもは親を介護しなくてはならない」という法律はない。子どもを縛るものがあるとすれば、「親を介護しない子どもは親不孝者だ」などと思い込み、「世間体」や「体裁」を気にする自分自身くらいだ。

子どもが親を介護するのは、あくまでも「余裕があれば」でいい。

憎しみ続けることと囚われ続けることは同じことだと気付いてほしい。二藤さんは父親への依存を認め、それを手放して初めて、アダルトチルドレンの自分を癒やし、自分の人生を生き始めることができるのかもしれない。

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旦木 瑞穂(たんぎ・みずほ)
ノンフィクションライター・グラフィックデザイナー
愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する連載の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、東洋経済オンライン「子育てと介護 ダブルケアの現実」、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、日経BP 日経ARIA「今から始める『親』のこと」、朝日新聞出版『AERA.』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。2023年12月に『毒母は連鎖する〜子どもを「所有物扱い」する母親たち〜』(光文社新書)刊行。
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(ノンフィクションライター・グラフィックデザイナー 旦木 瑞穂)