
(国際ジャーナリスト・木村正人)
第1次政権からの側近バノン、ナバロはマスク批判の急先鋒
[ロンドン発]電子決済の先駆けPayPal、電気自動車(EV)のテスラ、宇宙開発のスペースXで成功を収めてきたテック企業家のリバタリアン(自由至上主義者)イーロン・マスク氏がMAGA(米国を再び偉大に)運動の権力闘争に敗れ、第2次トランプ政権から放逐された。
MAGA支持層は白人、低学歴、ブルーカラー、宗教保守、ラストベルト(中西部の旧工業地帯)、歴史的・文化的に南部らしさが残るディープサウスを中心に広がる。第1次政権からの側近スティーブン・バノンやピーター・ナバロ両氏はマスク氏批判の先頭に立ってきた。
ドナルド・トランプ米大統領とテスラとスペースXの利権拡大を狙ったマスク氏の決裂は「強烈なエゴの激突」というだけでは片付けられない。グローバリゼーションの負け組の不満につけ込むポピュリズムとリバタリアンの矛盾は英国の欧州連合(EU)離脱でもあらわになった。
財源のない減税・成長戦略で財政危機を招いたリバタリアンのリズ・トラス英首相(当時)を、前英中銀・イングランド銀行総裁のマーク・カーニー現カナダ首相は「離脱派はテムズ川のシンガポールを目指したが、実現したのはイングランド海峡のアルゼンチン」と嘲笑った。