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中野サンプラザの再整備計画は2025年3月の中野区議会において区より白紙の方向性と示された。
2025年6月2日の第2回中野区議会定例会区長行政報告にて、区長はこれまでの経緯と今後の展望について述べられた。
中野区は2024年12月まで施工予定者である野村不動産より提出された見直し案に対して、「施設整備のコンセプトや必要機能は概ね満たされているものと考えている」とポジティブな態度だったが、一転、2025年3月には内容の変更にかかる承諾及び承諾にかかる協議の継続は行わない決定をした。
区民、議会の声が行政に届いたのか、望まぬ再開発とならず安堵するところだが、要所でその判断理由が一切説明されない現在の区政の進め方に疑義が生じた。
そして2022年12月に施行予定者と各地権者との間で締結した「(仮称)中野駅新北口駅前地区第一種市街地再開発事業の事業化推進に関する基本協定」について、施行予定者と区をはじめとする各地権者間で解除に関する内諾が得られたことから、新たなまちづくりのステップを踏み出すべく本協定を解除することになった。
協定解除に当たっては、2025年3月に可決した議員提出議案「議会の議決すべき事件等に関する条例」の規定に基づき、同定例会に協定解除の議案が提出され、6月19日の本会議で採決される見込みである。
これでプロジェクトは白紙となり、区民が納得する計画を作り直すためにもあらゆる想定をし、ひとつひとつメリット・デメリットを明確に示しながら、取捨選択していく必要があると考える。本稿ではそのためのブレインストーミングを行うこととする。
「にぎわい」と「いこい」、そのバランスをどう取るか? 1j1x2o
中野サンプラザを再整備するにあたり、重要なのは「誰のための施設なのか」という視点である。観光客をターゲットにした「にぎわい」だけでなく、地域住民にとっての「いこい」の場としての役割も見逃せない。
「にぎわい」は経済波及効果を中心に考える必要がある。私は昔、7年間、年の半分を東京ドームに隣接する大学の中で寝泊まりする生活をしていて、東京ドームにおいてジャイアンツの試合、旧ジャニーズコンサートなどがあれば、イベント終了後、飲み屋はたちまち満席になる様子を目の当たりにした。
中野サンプラザが閉館して約2年経つが、そのせいで売り上げが減ったという声は聞かない。サンプラザは演歌やアイドル、オタク系の興行が多く、来場者は「推し活消費」などに励み、周辺地域にお金を落とすような属性ではなかった可能性がある。
例えば、中野区内の大イベント「中野ランニングフェスタ」や「東北絆まつり」などがあれば、地域の飲食店が満席になるなど、経済効果が明確に現れる。仮に再整備するのであれば、スポーツイベントにも対応できる複合アリーナなど、地域全体に波及効果のある「真のにぎわい」を生み出す施設設計が求められる。
一方、「いこい」の機能を盛り込みすぎると、どの要素も中途半端になりかねない。区民の声を丁寧に拾い上げ、優先順位をつけた上で、最適なバランスを見極めることが必要である。
事業手法の選択肢:現存施設再活用と定期借地・権利変換による再開発の是非 1i2813
再整備の方法としては、現存施設の再活用、定期借地による再開発、権利変換による再開発の3つが考えられる。
本当に解体ありきで良いのか?:現存施設の再活用の可能性 5e565x
新・中野サンプラザ再開発計画の頓挫により、現在、閉館したまま中野サンプラザが残っている状況である。
先日の「中野区施設の長寿命化計画、妥当か無謀か:中野サンプラザはどうなる?」で説明した通り、中野区は新たな区有施設整備方針で耐用年数80年とする。その方針に則れば、中野サンプラザは建築からまだ52年、つまり、あと28年間は利用できるポテンシャルがある。
5月28日、6月1日に「中野駅新北口駅前エリアのまちづくりに関する説明会」が開催された。説明会資料には図1の中野サンプラザの内部の写真が掲載されている。
図1 中野サンプラザの現状
中野駅新北口駅前エリアのまちづくりに関する説明会資料、pp.21-22
また私は、2025年5月27日に閉館した中野サンプラザの中に議員の調査権をもって、複数の議員と調査に行った。
中野サンプラザ閉館後、すべての電源を落とし、常時ポンプアップしていた地下水がフロアに溜まることになり、その結果、地下フロアはカビだらけとなった。その後、定期的に水を抜くも、地下フロアはオーバーホールしなければ使い物にならない。一方、地下以外のフロアは当時のままであった。しかし中野サンプラザは50年程度を目途に閉館することを念頭に入れていたことから、建物躯体、電気・ガス・上下水道・通信網等はギリギリのメンテナンスとなっていたようである。
図2に示すように、中野区は改修に100億円以上かかり、回収には50年以上かかるとの見解を示している。改修費はあくまで計算式に入れただけの試算であり、調査しなければわからない。
図2 中野サンプラザの再利用
中野駅新北口駅前エリアのまちづくりに関する説明会資料、pp.16
これは中野サンプラザの営業時の年間純利益が約1~2億円ということから算出された数字である。現在、中野サンプラザが置かれている状況を鑑みると純利益がもっとあるはずで、私なりに試算をした。
中野サンプラザを経営していた「株式会社まちづくり中野21」の決算資料からサンプラザ再稼働による純利益について試算した。中野サンプラザは紆余曲折あり、財産整理、リファイナンスをした2023(令和5)年度決算を比較すると、現金及び預金は約6.6億円から約15.3億円へと増加、固定負債いわゆる借金は約50億円から約43.3億円へと減少し、合計約16.1億円の実質資産が増え、12年間で割れば年間1.34億円のプラスとなる(表1)。
表1 株式会社まちづくり中野21(中野サンプラザ所有会社)の純利益概算[2011~2023年]
また自民党提案で、図3に示すように中野サンプラザの土地・建物の権利を株式会社まちづくり中野21から中野区への移転することで、固定資産税2.22億円がゼロとなる。
図3 サンプラザの中野区への寄付の意味
※詳細は「サンプラザ再開発計画白紙へ:中野区議会からみた顛末」
そして、中野サンプラザの土地建物を管理している株式会社まちづくり中野21には借金元本43億円があり、その利子返済分6600万円があったが、今年度中に中野区が立て替えて、借金は全額返済するため、この6600万円もゼロとなる。したがって、営業時の純利益1.34億円、固定資産税免除分2.22億円、利子返済分0.66億円を足し合わせると概算で年間4.22億円、これが中野サンプラザ再稼働による純利益である。これが続けば、28年間で100億円の改修費用も十分に回収できる可能性がある。
区は解体ありきで、再利用する場合のシミュレーションをしっかりとしていない。区は解体する方針であったとしても真摯に残せる可能性も探っていく態度が必要だと考える。
定期借地・権利変換を選択する条件 15q49
権利変換による400億円の転出補償金を当てにした新庁舎整備費、中野サンプラザの借入金返済などは区の貯えから支払うことになり、権利変換にこだわる必要はなくなった。そこで定期借地という選択肢が生まれる。
しかしながら、定期借地による開発は、土地の権利を細分化せずにすむ一方で、分譲住宅の建設には向かない。マンションの法定耐用年数は47年、寿命はメンテナンスの状況や構造によって異なるものの、47年はひとつの基準値である。
全国で築50年以上のマンションが41.5万戸を超える中で、実際に建替えられたのはわずか2.4万戸、全体の6%以下に過ぎない。建替えが極めて困難なことを考えれば、定期借地で住宅を入れるのであれば、せめて賃貸マンションにとどめるべきである(図4、図5)。
図4 築40年以上のマンションストック数の推移
国土交通省HP資料に筆者加筆
図5 マンション建替え等の実施状況
国土交通省HP資料に筆者加筆
定期借地であれば、マンションが入り込まない仕様が好ましいと考える。
京都府は令和7年3月、座席数9000人程度の京都アリーナの開発において、施設整備費および維持管理・運営費348億円で、伊藤忠商事を代表企業とする事業者グループを優先交渉権者に決定した。
このような施設を中野につくることも選択肢だと考える。
東京ドームの築地移転の噂がある中、中央・総武線上にある大きな会場に優位性がある。
権利変換方式についても、機能の多様性を求めて分譲住宅を含めると、権利が細分化され、将来的な再整備の足かせになる。中長期的な運営・管理を考慮すれば、権利変換は慎重に扱うべき選択肢である。
ちなみに中野サンプラザ再開発計画の白紙前はまちづくり中野21が支払うとされていた法人税(約100億円相当(不動産売却354.5億円×税率30%)、図6)は、土地・建物が中野区に移転(寄付)され、区が所有者となれば、地方公共団体は法人ではないため課税対象とならず、私の提案が100億円の財政効果を生むことになる。
図6 予定していた転出補償金の使い道(https://agora-web.jp/archives/250331015904.htmlより抜粋)
今だからこそできる「アニメの聖地」戦略 4m3j4p
現在、サンプラザが閉館中であるからこそできる、新たな活用提案もある。中野区では先月、区内産業・大学・行政が連携し、「アニメでつながる中野実行委員会」が発足した。アニメ文化を活用した街づくりは、中野の個性を前面に押し出す絶好のチャンスである。
例えば、サンプラザの外壁を活用したプロジェクションマッピング。本社が中野区にあるMAPPAが手掛ける「進撃の巨人」などの人気コンテンツとの連携でインパクトある演出が可能である。前回は寄付金で実施されたが、今後は広告収入という形での持続的運用も検討すべきである。
中野区の未来を形づくる公共施設整備計画や中野サンプラザの再活用は、財政・文化・生活にまたがる複雑な課題である。しかし、ひとつ確かなのは、決して「解体ありき」「にぎわいありき」ではなく、区民の声を丁寧に聞きながら、冷静かつ柔軟に道を選ぶことが求められている。