フォトグラファー、映像クリエイターROBIN FURUYAとして、数々のスチール、映像作品を手掛ける俳優・古屋呂敏さん。2025年6月13日には、写真集「MY FOCAL LENGTH」をリリース。また2025年6月17日からは同タイトルの写真展も開催。
今回の写真集、写真展に込めた想い、作品との向き合い方、古屋さんを撮影に掻き立てるものは何か。その原点を聞いた。
――写真集と写真展のタイトル「MY FOCAL LENGTH」(古屋呂敏の)に込めた想いを教えてください。
僕、撮影をする時に「距離感」ってすごく大事にしてきたんです。それは被写体との距離感もそうだし、モノとの距離感だったり、自分が世界をどう見てるかっていう“見え方との距離感”みたいなものも含めて。
この写真集では、僕自身の“今の距離感”をギュッと詰め込んでいる感覚があって。それを象徴する意味で「MY FOCAL LENGTH」というタイトルにしました。僕の「焦点距離=Focal Length」は、見る人のそれとはきっと違う。人それぞれに焦点距離が違ってて。写真集を通して「僕にはこう見えている」っていう距離感を可視化したかったんです。
――「焦点距離」って、カメラや写真をやってる人には馴染みのある言葉ですが、一般的には少し難しいですよね。
そうですよね。でも僕は、人それぞれ“心のレンズ”を持ってると思うんです。どこにピントを合わせるかって、無意識のうちにみんな選んでいる。
たとえば、今このインタビューでインタビュアーがメモをとっている手元に焦点を合わせているか、話している顔に焦点を合わせているか。それだけでもピントって違いますよね。その無意識の“フォーカス”を写真という形で可視化できたらなと思っていて。
この写真集に写っているものたちは、僕が自然と「いいな」と思ってシャッターを切ったもの。だから、鏡のように僕自身が映っているんです。ちょっと抽象的だけど、「無意識の自分」を写したものでもあるとも思ってます。

――カメラは撮る人自身を写す、と言われることもあります。
まさにそう思います。僕は今、“流れの中に生きている”と強く感じていて。SNSの時代で、ものがどんどん消費されていくじゃないですか。役者としてもクリエイターとしても、日々変化している中で、自分自身がどう流されているかっていうのを表現したかったんです。だからあえて“ブレ”を取り入れたり、花の写真ではシャッタースピードを遅くして風を感じさせたり。そういう技法を使って、「今の自分」を写しています。
――新たに撮り下ろした作品には、セルフポートレートも多く含まれているとか。
やっぱり“今の自分”をしっかり捉えたいって思いがありました。選んだ写真も、ブレていたりカメラ目線じゃなかったり、どこか曖昧なものが多くて。でもそれが、今の自分を表している気がして。言葉にはしづらいけど、抽象的な表現の中に、自分が見えてくるような気がしてるんです。
――今回の作品はすべて、ニコン「Zf」で撮影されたんですよね。
ニコン「Zf」とは縁があって、「Zf」のビジュアルイメージモデルを担当させていただいています。そのときに持たせていただいたのが最初です。もともと僕自身フィルムカメラのニコン「FM2」を使っていたので、あのデザインと質感が最新のデジタル一眼カメラで再現されているのはすごく魅力的で。発売になってすぐ購入して使っていました。そうしたら、GENIC WEBで連載をさせていただくことになったり、「Zf」にまつわるいろんな企画に関わらせていただくようになって、今回の写真集・写真展に繋がってるんです。
「Zf」は、こだわって真鍮で作られているパーツがあったり、フィルムカメラのようにあえて指先で動かすギミックがあるのも、カメラとして醍醐味なのかなと思いますね。「Zf」って“撮りたくなるカメラ”なんですよ。持っていて心が躍るのって、カメラマンにとっては大事な要素ですよね。
レンズは、今日は28ミリを着けていますが、基本はニッコール50mm f/1.2Sをメインで使ってます。この「Zf」ではオールドレンズを楽しむことが多いです。今回の作品では現行のレンズももちろん使っていますが、割合としてはオールドレンズが多いですね。
――写真集を制作するにあたって、エディトリアルにもかなり関わられたと聞きました。
1年半にわたって連載用に撮影した写真の中から、エディターさんと一緒に構成を練って、この写真の隣にはこれがいい、っていうのをいろいろ考えました。
たとえば人物写真と花や風景を並べるとか、この写真はヨコ位置にしてみようとか、頭の中で勝手に物語を作って写真を組んでいくというのが新鮮でとても楽しくて。そんな物語を無意識に感じてもらえたらうれしいですね。
――写真展と写真集、それぞれで写真の見せ方に違いはありますか?
ありますね。写真展って、わざわざ“観に行く”という行動が必要じゃないですか。それって今の時代、すごく重たい動きだと思うんですよ。だからこそ、写真展では空間や音楽も含めて「体験」として見やすい写真を選んでいます。一方で、写真集は家でじっくり向き合えるものだから、そこには流れや物語を意識して構成しました。
――そもそも古屋さんが写真を始められたきっかけは?
もともとはモデルとして“撮られる側”だったんです。ファッション雑誌も2誌レギュラーでモデルを務めさせていただいていたんですが、撮影の現場でカメラマンさんがすごくカッコ良く見えたんですよね。
撮られるだけだと、どこか“ものづくりに参加していない感覚”があったんですよ。スタジオなどに行ってモデルとして全力を尽くすのですが、撮影が終われば僕の仕事は終わりますよね。でもカメラマンは企画段階から関わって、撮ったあとも編集に関わって…そこに強く惹かれました。
それで、現場で出会うカメラマンの方々にいろいろ教えてもらいながら、だんだん自分も撮る側へと移っていきました。最初はカメラマンの方にお願いして、アシスタントとして現場に行かせていただきました。そこで、なんでレンズ3本あるんだろう? このレンズ使ったらこう写るんだ、長玉って言うんだ、これが単焦点なんだみたいな。基礎から学びました。あと、ストロボってこんな仕組みになっているんだとか、そのうちテザー撮影のやり方も教えてもらって。プロのカメラマンに教わりながら、自分でも勉強しながら身につけていきました。
――古屋さんの写真を撮るモチベーションは何でしょう?
人を撮るのが好きなんですよね。それには理由があって、あるモデルさんを撮影したときに「あなたが撮る写真の中で生きる私が好き」って言ってくださったんです。それがもう僕にとっては衝撃で。あなたが撮る世界、その1枚の中にいる私が好きなんて言われて、めちゃくちゃ嬉しかった。心が震えたというか。「あ、フォトグラファーとして生きていきたい」って思ったきっかけになりましたね。それで人を撮ることが多くなりました。

――今回の作品では、人物以外に「花」の写真も多いですね。
実は、最初は「花なんて誰が撮っても一緒でしょ」って思ってたんですよ。でもちゃんと向き合ってみたら、照明の当て方ひとつで全然表情が変わる。
光の角度で可愛くもなれば、色っぽくもなる。その奥深さに圧倒されて、気がついたら夢中でスタジオに2日間こもって撮ってました(笑)。
こっちから光を当てて、いやちょっと待ってレフ当てたほうがいいか、こっちからも光当てるか…みたいなことを一人でブツブツブツブツ言いながらずっと撮ってて。でもそうしているうちに無機質なものと、生きてる世界のバランスってどうなんだろうって思い始めて。自分がいつもお世話になってるセンチュリー(撮影用の機材)に1輪のバラを挿してみたら、シルバーのセンチュリーの光の反射の具合と、バラの反射の具合がなんだか愛おしく感じたりして。そんなことをずっとやってました。
「カラー」もよく被写体になりますけど、みんなが注目する花びらじゃなくて、僕は茎の力強さとか、誰も見ていない部分に目がいったんですよね。花にも物語があったんですよ。
――今後どんな写真を撮っていきたいですか?
これからも人物は撮り続けたい。でも今回、花を撮ってみて「普段押さないところでシャッターを押してみると、新しい世界が広がる」ってことを知れたので、今まで自分が避けてきた被写体にもどんどん挑戦していきたいと思っています。
写真集「MY FOCAL LENGTH」 1y63h
発売日:2025年6月13日(金)より発売中
定価:11,000円(税込。本体10,000円)
サイズ:H267mm x W187mm x D21mm(ケース収納時)
製本:ハードカバー上製本160ページ
発行:ミツバチワークス株式会社
古屋呂敏「MY FOCAL LENGTH」写真展 4x2o38
<東京> 366i6j
会期 2025年6月17日(火)〜6月30日(月)
時間 10:30〜18:30 ※最終日は15:00まで
会場 ニコンプラザ東京 THE GALLERY
住所 東京都新宿区西新宿1-6-1 新宿エルタワー28階
休館日 日曜
入場料 無料
<大阪> 1rq1t
会期 2025年7月10日(火)〜7月23日(水)
時間 10:30〜18:30 ※最終日は15:00まで
会場 ニコンプラザ大阪 THE GALLERY
住所 大阪府大阪市中央区博労町3-5-1 御堂筋グランタワー17階
休館日 日曜
入場料 無料
古屋 呂敏 (ふるや ろびん) 6k3760
俳優・フォトグラファー 1990年、京都府生まれ滋賀県/ハワイ育ち。カメラ歴は8年。Nikon Zfを愛用。父はハワイ島出身の日系アメリカ人、母は日本人。俳優のみならず、フォトグラファー、映像クリエイターROBIN FURUYAとしても活動。ハイブランドの映像制作も手掛ける。2022年には初の写真展「reflection(リフレクション)」、2023年9月には第2回写真展「Love Wind」を開催。